[翻訳] Mozilla Hubsのシークレットマスタープラン

The Secret Mozilla Hubs Master Plan」の翻訳です。

この記事は、AltspaceVR(2017年にMicroSoftが買収)の共同創業者で現在はMozillaでエンジアリングマネージャーを勤めているGreg Fodor氏が、HubsとSpokeの戦略を説明したものです。

まずウェブが「焦点したこと」と「やらなかったこと」を分析して、次にHubsやSpokeはウェブの前例を踏まえて何を行うことにしたのかを説明しています。Hubsはブラウザベースの仮想空間スペースと呼ぶようなもので、Spokeはそのワールドの作成ツールです。

直近10年のモバイル隆盛をガン無視してるところなど仮説の正しさには疑問もあるんですが、このような大きさのテクノロジープラットフォームの設計を要因分析から戦略構築まで論理性を持って導出しているプロセスは、仮説の正しさはさておき示唆が多いなと思った次第です。

以下、翻訳です。

 

 

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この記事は、「テスラモーターズ秘密のマスタープラン」をリスペクトして、MozillaHubsSpokeの背後にある私たちのマスタープランについて書き記したものです。

私たちは、3Dの「メタバース」はWorld Wide Web(WWW)と同じような前提条件の下で成長していくだろうと予想しています。

 WWWの成功を導いた前提条件を理解して、それらの前提条件には何が無かったかに注目することで、初めてのグローバル規模の3Dメタバースがいったいどのようなものになるかを予測しました。HubsとSpokeは、今のような初期段階で人々にとって最も役立つであろうと私たちが考えた試みになっています。インターネットやウェブのように、HubsとSpokeが成長し、適応し、永遠に続くように設計しています。

なぜウェブは勝ったのか?

ウェブは、グローバルに分散されたマルチメディアネットワークのドキュメントプラットフォームとして初めて成功しました。そのキーとなる要因は、インターネットスタック上のいくつかの新技術でした。

  • URL リソースを一意に識別して取得できる
  • HTML 構造化されていながら一定の自由度も保ったリンク付きのマルチメディアドキュメントを作成できる
  • HTTP HTMLドキュメントの解決+取得を可能にする
  • 無料で配布できる、実行が容易なウェブサーバ
  • HTML文書を表示してサーフィンするための無料のウェブブラウザクライアント
  • その発展を導くために中立的で公共性の高いガバナンスプレイヤー

ウェブがやらなかったこと

ウェブは主張が強いものでした。

以下のように、他の類似プロジェクトが実装したたくさんのことを、ウェブは対象外にしました。

  • 双方向リンク
  • サイト間の統合的ユーザー基盤
  • トランザクションやコマース
  • 動的でプログラムできるドキュメント

これらの特徴はどれもウェブが成功するためには必要なかったと明言できます。30年経ち、上のリストのうち動的でプログラムできるドキュメントだけはウェブの中に取り込まれていますが。そして、ウェブの類似プロジェクトたちは、これらの特徴を実装しようとしてみんな失敗しました。おそらくある観点からは余計な機能になったためです。

だから、ウェブと同じくらい大きな規模なものを作ろうとするなら、何を含めるかと同じくらいに何を含めないかを考えることが重要です。

スーパーネットワークとメタバース

ウェブはプロトコルとソフトウェアの小さなセットであり、インターネットの頂点のレイヤーに位置付けられたことで爆発的なネットワークの成長をもたらしました。

同じように、私たちはメタバースプロトコルとソフトウェアの小さなセットにして、ウェブの外郭に位置付けることで爆発的なネットワークの成長をもたらそうと考えています。

今日、インターネットに繋がっていないメタバースを構築する人はいません。 しかし、ウェブに繋がっていないメタバースプロジェクトはたくさん構築されています。 なぜでしょうか?

最初にグローバルに普及するメタバースはウェブに繋がったものになるでしょうか?ならないでしょうか?

インターネットを活用していなかったウェブ以前のドキュメントシステムはすべて失敗しました。 ウェブ上に構築されていないメタバースシステムも同様に失敗すると考えられます。 その理由です。

グローバルで指数関数的に成長する分散化されたスーパーネットワークが集める恩恵は、それなしで作れられるものをいつも遥かに上回ります。

ウェブにとって、このスーパーネットワークはインターネットでした。 メタバースの場合、スーパーネットワークはウェブとインターネットの両方になります。

ウェブとインターネットはどちらも、宇宙の成長と同様に指数関数的に成長しており、それぞれが無限の始まりを表しています。 無限の始まりとは、指数関数的に永遠に成長し、反脆弱であり、後世までシステム内のすべてのものへ永遠に成長する莫大な価値の恩恵をもたらし続けます。

インターネットの恩恵は、人類が持つすべてのコンピュータを接続できることです。 ウェブの恩恵は、そのコンテンツ、文化、およびブラウザです。 メタバースは、ウェブに組み込まれることにより、これらの指数関数的に増大するすべてのリソースを自動的に継承します。永久に。

したがって、ウェブの中に埋め込まれたメタバースは、インターネットの中だけに埋め込まれたものよりもはるかに大きな恩恵とリーチを持っているので長続きするでしょう。

ウェブメディアと、それが行き詰まった理由

ウェブは、表現可能な水準と出来上がるものの洗練さが絶妙なバランスである新しいメディアを作りました。 ハイパーメディアドキュメントを作成し、表示し、およびリンクする方法です。 当時のプレーンテキストのインターネットのコンテンツネットワーク(訳注: 他のパソコン通信のこと)より高いレベルでしたが、完全なインタラクティブでプログラムできるマルチメディアプラットフォームよりは低いレベルでした。

ウェブは人々に高いレバレッジを与えましたが、厳しい制限もありました。 HTMLのシンプルさと寛容さにより、誰でもネットワークに参加してリッチなコンテンツをすばやく作成できます。 HTMLの記述はプログラミングのようなものではありません。あなたが多くの間違いを犯してもページが引き続き機能できるようにブラウザは保証してくれています。

ウェブが誕生した時に、コンテンツを作成する方法が今日のウェブのように難しかったら、決してワークしなかったでしょう。 最初のウェブページを作成するためにJavascriptを使用する必要があったと想像してみてください。 そのようなものを作成できるのはプログラマーだけでした。 ウェブは失敗したでしょう。

逆に、ウェブがプレーンテキストファイルに限定されていたら、今のように普及していなかったでしょう。 HTMLの豊富なタイポグラフィとマルチメディアが、ウェブをグローバルに普及した新しいメディアにした理由です。 ウェブ上のページの豊富さにより、知識共有、創造的な表現、革新の爆発がもたらされました。

ウェブを使えば、学校の教師はローマの歴史についてのウェブサイトを独自に公開することができます。そのウェブサイトはそのような知識を求めるすべての人にとってすぐにアクセスできて価値があります。 ウェブが単純すぎるメディアを選択した場合、またはコンテンツを作成するのが難しすぎるメディアを選択した場合、これは不可能でした。

Yahoo!Googleなどの企業は、ウェブの輝きに繋げるための検索ツールを作成しました。 そのようなツールが出現し、数十億ドル規模の企業を生み出すことは予測不可能ではありましたが、避けられないものでした。 ウェブ自体の普及範囲は、そのデザイン故に誕生時に約束されたものでした。 ページがネットワークに参加すると、現在および将来のすべての人類がその恩恵を受けることができます。

ウェブのデザインの背後には3つの見事な点があります。

  • 先行事例より遥かにリッチであるが、新規参入者たちにやさしい高レバレッジのメディアを作るために、
  • インターネットの上に最小限のプロトコルとソフトウェアを作ることで、
  • スーパーネットワークであるインターネットの指数関数的に増大する恩恵を活用します

メタバースについてウェブが教えてくれること

ウェブの歴史が私たちを導いてくれるなら、最初のグローバルなメタバースについていくつかのことを予測できます。

  • スーパーネットワークに組み込まれ、そのネットワークの指数関数的に成長する恩恵を活用します
  • 最適に洗練され、新規参入者たちに寛容であるが、グローバルに普及した以前のメディアよりもさらに豊かなメディアを実現します
  • 新規参入者がネットワークに参加して貢献するのが簡単です
  • 不要な機能で過負荷になりません

実用最小限のメタバース

では、グローバルに普及したメタバースを生み出すためにもっとも適したメディアはどれでしょうか?別の質問に言い換えると、メタバースの新規参入者は今日では得られないどんな新しい高レバレッジを得るでしょうか?

あなたがこれに答えることができるなら、その高レバレッジを実現するシステムを構築し、もっとも成長するスーパーネットワーク(ウェブ +インターネット)に埋め込んでください。必然的にウェブと同じ大きさになるメタバースができます。

ウェブの場合、当初は無かったものの、次第にウェブに含まれるようになった例を次に示します。

  • インタラクティブなアプリケーションまたはゲーム
  • リアルタイムの音声およびビデオ通信
  • コンテンツの共同作成
  • 新しいビジネスモデルとコマース
  • オンラインのコミュニティと共存

ウェブはシンプルでした。グローバルにアドレス指定できるリンク付きのハイパーメディアドキュメントです。ウェブメディアは世界的に広まりました。 上述のことを誕生時に行うことができなかったという事実は、その成功を妨げるものではありませんでした。只々、適切に洗練されたメディアを持ち、インターネットのスーパーネットワークを活用したことだけが、成功するために必要な前提条件でした。

ウェブはその後もっと多くのことができるように進化しましたが、もし誕生時にその多くが試みられていたなら、誰もそれに貢献することは難しくて失敗したでしょう。

では、メタバースが世界規模に到達するために必要では無いものは何でしょうか?言うのは難しいですが、初めは持ってないけどそのうち成長する可能性があると私たちが考えるもののいくつかの例を以下に示します。

  • 大きな3Dワールド
  • 共同編集、共同建築、共同造形
  • リッチなゲームや3Dアプリケーション
  • グローバルなバーチャルグッズの市場や経済
  • 普遍的なアドレス空間の家
  • あなたの「セカンドライフ」を生きる場所

それで、グローバルに普及するためにメタバースに必要なものは何だと思いますか?

ウェブ創発となるメタバースの要となるもの

私たちは、他者との物理的な関係が根本的に変化している真っ最中にいます。 最近の調査によると、VRバイスは、今日、社会的存在感を実現する上で対面式の対話と競り合っています。 こんなことは前例のないものです。 通信革命はさまざまな方法で世界をつなぎましたが、メッセージングやビデオ会議などのツールにもかかわらず、これまでのところ、リモートで対面と同じくらいの社会的存在感を提供することにまったく失敗しています。 しかし、VRとARで、その最終的なフロンティアが破られようとしています。

物理的に離れている状況での社会的存在感や同じ空間にいるという共有感覚の実現は、インターネットやウェブと同じくらい社会の変革です。 したがって、グローバルに普及した最初のメタバースで可能になっているはずの基本的なこととは、ネットワーク上の人々がネットワーク上の他の人間との混合メディア環境で、社会的存在感や同じ空間にいるという共有感覚を即座に体験できることでしょう。

ウェブでページを公開すると、世界中からアクセスできるたくさんのドキュメント群に繋がることによって、てこの作用が起こります。 同様に、アドレス可能でマルチメディアのネットワーキングされた3Dスペースを公開すると、いつでも想像できるかぎりのコンテンツや文脈で、地球上のどんな人たちとも社会的存在感や同じ空間にいるという共有感覚を持つことができるようになるでしょう。

この高レバレッジがグローバルに普及する可能性があります。

そのために最低限必要なものは次のとおりです。

  • リアルタイムのアバターベースのコミュニケーション(音声+ボディランゲージ)
  • 3D空間での動的なマルチメディア
  • 仮想環境
  • アドレス可能な場所
  • 個々にネットワークに参加できる機能

さらに、ウェブと同様に、次のものが必要です。

  • 無料でアクセスできる使いやすいツールとソフトウェア
  • 中立的で公共性の高いガバナンスとプレイヤー

メタバースを作ろうとする人たちはこれ以上は何も構築するべきではないと考えています。余計な特徴や機能を追加しないように避けている他の競合よりも複雑になってしまうため、リーチは増やさないし、アダプションが損なわれるでしょう。

最後に、長期的な恩恵を最大化するためには、インターネットだけでなく、ウェブのスーパーネットワークにも組み込む必要があります。

現代のウェブはメタバースをサポートできます

ウェブは、上記のニーズのそれぞれに確固たる基盤を提供します。

  • リアルタイムのアバターベースのコミュニケーション:ブラウザプラットフォーム(WebRTC/WebGL/WebXR)
  • 3D空間での動的なマルチメディア:ブラウザプラットフォーム、ウェブコンテンツ、ウェブ標準(glTF、ビデオなど)
  • 仮想環境:ブラウザプラットフォーム(WebGL/WebXR)
  • アドレス可能な場所:URL

さらに、次のものが必要です。

  • 3Dコンテンツとアバターを作成するための無料で使いやすいツール
  • マルチメディアスペースに参加するための使いやすい「ブラウザ」
  • 個々にネットワークに参加するための簡単で安価なサーバ実行環境

これがまさにHubsSpoke私たちが目標にしていることです。

HubsとSpokeがグローバルに普及するかどうかはまだ分かりませんが、次に解説するプランは、同様の目標を検討しているプロジェクトにとっても参考になるかもしれません。

マスタープラン

HubsとSpokeなら、これらの仮説と私たちがこれから行う実行により、グローバルに普及するシステムが実現できるかどうかを間近に見ることができると思います。

立ち上げからの計画は次のとおりです。

  • マルチメディアでグローバルにアドレス可能なスペースのための使いやすいアバターコミュニケーションツールを作成します
  • 3D環境と3Dアバターを作るための使いやすいツールを作成します
  • ブラウザで実行できるようにビルドし、ウェブの文化を抱擁します
  • すべてのコードをオープンソースにします
  • 誰でも自分専用の分散サーバを安く簡単に立てられるようにします

意図的に含めないこと

私たちはそのうちこれらのものが誰かが作ることによって登場してくることを完全に期待していますが、彼らがリモートでの社会的存在感や同じ空間にいるという共有感覚を提供する必要はなさそうです。 というか、その2つこそがグローバルな普及を達成するための主因として私たちが見ているものであり、他はすべて放棄しています。

私たちが共有する最後のピースは、Hubs Cloudです。Hubs Cloudにより、みなさんは自分のサーバを実行できます。安くて簡単です。数回のクリックで起動して実行できます。初期のパイロット版では、サーバをセットアップした経験が無い教師や医者や3Dアーティストの人たちに、AWSで完全にスケーラブルなセルフホストサーバを立ち上げてもらいました。最新のツールにより、昔のウェブサーバに比べて独自サーバを非常に簡単にデプロイできるようになりました。

初期のウェブは、安価で簡単に実行できるウェブサーバを用意できないならワークしませんでした。 ウェブを分散化することにより、人々は自分の興味やニーズに基づいてボトムアップでコンテンツを作成し、それを世界と共有できるようになりました。

同様に、初期のメタバースは、人々が状況に応じてマルチメディア環境でプライベートに会うことができる安価で実行が容易なサーバを用意できなければワークしないでしょう。 分散サーバは、この新しいメディアが個別に成長し、世界中の人々の多様なニーズを満たして進化できることを保証します。
そして、それを可能にするのがHubs Cloudであり、私たちが作ろうとしている未来です。これはマスタープランの最後の部分であり、皆さんと共有するのが待ちきれません。